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蔵前駅

 観光客で年中賑う浅草の南側にある蔵前駅は、街道沿いにオフィスビルやマンションが立ち並ぶ商業地域であるが、一本裏の路地に入ると住宅が多く点在する。蔵前の地名は江戸時代に幕府の米蔵(浅草御蔵)があったことに由来し、春日通りにかかる厩橋(うまやばし)は、浅草御蔵に並んで厩(馬小屋)があり、「御厩の渡し」という渡しがあったことから厩橋と名付けられたそうだ。

 そんな江戸文化が残る蔵前も大手チェーン系飲食店が進出し、街並も昔と変わってきた感じがするが、探して見ると東京の郷土料理、“江戸前”の味を守り続ける名店が多く存在する。どの店も個性豊かで型にハマっていない。各々の独立した個性が街を形成し、そこに文化が生まれる。江戸を語るには外せない街である。

鰻やっこ
鰻やっこ

伝統を守りながら新たな挑戦を続ける江戸前の名店。
長年に渡り、多くの人に愛される味の秘密とは?

 蔵前のお隣、浅草にも郷土料理店がある。それが創業200年の歴史あるうなぎ屋さん、「鰻 やっこ」。こちらは江戸前蒲焼きの始祖と目されており、勝海舟やジョン万次郎などの名だたる著名人や文人が訪れている。平日の昼下がりに伺うと店主と女将が笑顔で迎えてくれた。中に入ると、ここは老舗洋食店かと見紛う空間になっており、大正ロマンを感じさせるステンドグラスと赤絨毯の敷かれた階段が2階へと続く。俄然、これから頂く料理に胸が高鳴った。

まずは「うなぎの白焼き」を頂いた。箸で簡単に切れる程、身がとても柔らかい。「これは身が崩れる寸前まで蒸し、備長炭でしっかりと焼いているからなんです。」と店主の矢野さんは語る。ワサビをつけて頂くと鮮烈なワサビの香りと共に上質な“魚の味”が口の中に広がって行く。名物の「蒲焼き」は初めて食べるとビックリ!コクがあり、こってりした他店のタレと違い、トロミがなく、サラッとしてあっさりした味。「当店のタレは継ぎ足しでつくられ、砂糖・醤油・みりんだけしか使っていません。素材の味を損なわないよう、薄味に仕上げております。」(店主・矢野さん)

続いて、お酒に合う一品料理の中から「肝わさ」と「うなぎハム」を頂くことに。肝わさは貝のような食感が特徴的で、新鮮なうえ湯がいてあるため、肝独特の臭みがなく旨い。うなぎハムは、伝統の味を守りながら、新しい物も取り入れる「やっこ」の寛容さを表した創作料理。うなぎに下味をつけ、蒸して冷やし、巻いて輪切りに。さっぱりした身と周りのコラーゲンが不思議な食感でこれまた旨し。

うなぎに合う酒はこれと矢野さんが持ってきてくれたのが日本酒「八海山」。酒と一緒に頂こうと残しておいた肝わさをつまんでチビリ。辛口の酒が肝の味をさらに引き立ててくれる。うなぎを待つ間、酒のアテに最高だ。江戸前の味を今に伝える数少ない名店「鰻 やっこ」。浅草に寄った際はぜひ訪れて欲しいお店である。

鰻やっこ
東京都台東区浅草1-10-2
03-3841-9886
11:30~21:00、(月~土ランチ 11:30~16:00)
http://www.asakusa-unagi.com/

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船宿釣新

隅田川を行き交う屋形船で江戸前の味を堪能。
四季を感じながら、下町の風情を楽しむ。

 蔵前駅A7出口の近くに隅田川にかかる厩橋(うまやばし)がある。厩橋の説明は冒頭で述べたので割愛させて頂くが、橋には馬をモチーフにしたレリーフが数多く設置されており、江戸時代を偲ばせる。

橋を渡ると屋形船「釣新」がある。屋形船と言えば、夏の風物詩のイメージが強いが年を通じて、春は桜橋の近くで花見、夏は隅田川の花火大会、秋はハゼ釣り、冬は忘年会・新年会や雪見酒と四季折々の楽しみ方や旬の料理が味わえる。乗船前の待ち合いで、女将の鈴木さんに屋形船の魅力について伺った。「一番の魅力は船上から見る隅田川の景色ですね。橋の下をくぐる時に見上げる雄々しい橋の姿は船からでしか見られません。」

周遊コースは厩橋から両国橋、永代橋をくぐりお台場で停泊。その後、勝どき橋、佃大橋をくぐり厩橋に戻るコース(通常は2時間半)。お話を伺いながら、料理を頂くことに。サーモン、イカ、中トロなどがのった刺身の船盛りはどれも新鮮で旨い。きんちゃく、サトイモ・シイタケ・ニンジンの煮物、ローストビーフなど、季節に合わせて作られる料理はあっさりした味付けが絶妙で高級割烹に来た気分にさせる。

料理を頂いていると船はブルーライトに輝く永代橋を過ぎ、本日のメインディッシュ、揚げたて天ぷらが登場!自慢の大エビ天は、全長15cmはあるビッグサイズ。これを大口開けてパクリッ。衣に閉じ込められたエビの旨味が口の中に広がる。揚げたてはこんなに違うのかと驚嘆しつつ、一気にビールを空けた。気づくと船は春美橋を抜け、豊洲に出ていた。林立するビル群の夜景をしばし眺めていると今度はキス・イカ・アナゴがお目見え。アナゴは唸るほど旨い。特別な味付けをしておらず、魚本来の味が楽しめる。

料理に合うお酒を問うと鈴木さんがすすめてくれたのが、日本酒「隅田川」。さすが、江戸っ子の鈴木さん。洒落がきいてる。隅田川で“隅田川”を飲むってぇのはオツですな。シメにアサリご飯と青海苔のみそ汁を頂き、デザートにメロンとかなり豪華だ。  本日のプランは\10,500の「春日」。通常飲み放題付きなので、そんなに高い感じはしない。四季を感じられる釣新の屋形船、まだ屋形船に乗ったことのない方はぜひ一度体験してほしい。

船宿 釣新
東京都墨田区本所1-3-11
03-3622-3572
10:00~20:00(最終出航 19:30)
http://www.yakatabune-tsurishin.com/

船宿釣新
魚料理 遠州屋
鰻やっこ

創業44年、
浅草の街をそっと見守り続けている大衆割烹の名店。
産地にこだわらず、自分の目を信じて選ぶ最高の素材。

蔵前駅から隅田川を背にして5分くらい歩くと田原町がある。田原町は浅草の喧噪から離れた落ち着いた街。そんな静かな街にひっそりと佇む割烹料理店「魚料理 遠州屋」がある。

こちらは創業44年になる大衆割烹のお店。ご主人が長年培った経験と技により生み出された料理の数々は、多くの人々の舌を唸らせてきた。若主人の安喰さんに素材へのこだわりについて聞くと「例えばマグロは大間産がいいと一般的に言われていますが、私共は産地にいっさいこだわっていません。自分の目で確かめ、その日、一番いい漁場の魚を魚河岸で買い付けています。」とのこと。いわゆるブランド魚ではなく、主人の眼鏡にかなった最高の素材だけを使って調理するということだ。

さっそくその厳選された魚を頂くことに。まずは「江戸前寿司」。マグロの赤身、中トロ、赤貝、ヤリイカなど8カンが並ぶ。注目したのはヤリイカ。舌に吸い付くような食感と身の甘さがなんとも言えない。赤貝はシャキシャキしていて、新鮮さがわかる。「江戸前天ぷら盛り合わせ」は、ハゼやメゴチなど江戸前で捕れた魚を使用しており、ハゼは淡白な味かと思いきや身がしっかりして、魚自体の持つ旨味と塩味がする。メゴチも弾力があり、こちらも旨い。

続いて、自慢の鍋の中から、今が旬の「アンコウ鍋」を頂いた。ゆずの浮かぶ透明度の高い出汁にアンコウのヒレ・皮・身・肝と白菜や豆腐、春菊などが添えられている。アンコウの身は筋肉質で噛み応えがある。驚きは皮。皮本来の味だそうだが、焼いていないのに香ばしい風味がある。ヒレもコラーゲンがあり、噛むと旨味がジュワっと出てくる。最後にお酒を頂こうとしたら、タイムアップ。後ろ髪を引かれる思いで帰り支度をしていると安喰さんが鍋に合うお酒はこれと石川の純米吟醸酒「天狗舞」をすすめてくれた。残念っ!

浅草・田原町にある魚の名店「魚料理 遠州屋」。目利きのプロが選んだ新鮮な素材を使った料理はここでしか味わえない。また行きたくなるお店であった。

魚料理 遠州屋
東京都台東区寿2-2-7
03-3844-2363
11:30~14:00 17:00~23:00(祝日は16:30~23:00)
定休日 日曜日 (事前予約のみ応相談)
http://www.enshuuya.co.jp/

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illustration by ケンスケミヤザキ, text by みつるボーイ
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